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2016.04.09

【編者の雑談】なぜレイプ被害の訴えは届かないのか〜ケシャの裁判〜

編者がぼんやりと考えていることを文章化した「編者の雑談」第二弾は、レイプ訴訟の渦中にある歌手ケシャについて。ニューヨーク州の連邦最高裁判では訴えが認められず、その後ケシャ側は控訴したものの棄却されるという結果に。もはやドクター・ルークからは逃れられないのか。

 
 
デビューシングル「TikTok」や「Die young」、Pitbullとの「Timber」を始め数々のヒット曲で知られる女性アーティスト、ケシャ。独特なファッションに身を包みパワフルな歌声を披露するその姿は、トップアーティストへの階段を順調に登っていく成功した少女にしか映っていない。でも、その舞台裏では心に傷を深く負っていたのだ。

 

18歳のケシャは、音楽プロデューサーのドクター・ルーク(本名ルーカス・ゴットワルド)に才能を見初められ契約を交わす。ところが、当時より彼から継続的な性的暴行、精神的虐待を受けていたとし、2014年10月に訴訟を起こしている。同じく、“虐待”を放任させたとしてソニー・ミュージックも被告に加えている。

 
 
業界ではよくあることなのだろうか—ケシャは、飛行機に搭乗する前に無理やり違法ドラッグを鼻から吸わされたり、殺すと脅しながらドラッグ摂取を強要、ケシャは意識を失い、起きた時には裸にされていたこともあったという。さらには、“デブのクソ冷蔵庫”と罵りながら太りすぎだと責められ、摂食障害になりリハビリを受けていたとのこと。また、事実を誰かに話したらキャリアを潰してやると脅されていたそう。

 
 
一方、ルーク側はこれら訴えのすべてはケシャの嘘だとし、すぐさま契約違反訴訟を起こしているのだが、その際に「ドクター・ルークが性的な関係を要求したことは一度もありません」と記された宣誓供述書を提出している。しかし、ケシャの弁護側はこれを否定し、彼女は恐怖にかられ真実を語れないでいるとした。事実、米Rape, Abuse&Incest National Networkによると、性的暴行の被害者のうち68%もの人が警察に話せないでいると報告している。事実を曲げられ、そこに同意を強要したとすれば、被害者に勝ち目はなくなる。それでも立ち上がろうとしたケシャの葛藤は、そう簡単なものではなかったはず。

 
 
平行線にて裁判は続き、ケシャは音楽活動ができない状態に。ここ数年、新曲をリリースしていない。自らも自身のキャリアは“事実上終わった”と述べるまでに追い込まれていると思うと、せっかくの才能が台無しだ。
そして、今年2月19日にやっと下された判決は、「彼女が自由でないといういかなる主張も、根拠があるものではない」と申し立てを否決、ソニー含めドクター・ルークとの契約は続行となり事実仕事を続けなければいけないという結果に。

 


 
ケシャ自身のinstagramに投稿された写真には「何も隠すことはない。これ(裁判)をしたのは、真実が私の魂を喰い去って、内側から殺そうとしていたから。私のためだけじゃない、これはすべての女性、そして性的、感情的、精神的、虐待にあったすべての人のためよ。私は真実を話さなければいけなかったの。だから結果がすべてね。私にはもうこれ以上何もできない。自分の運命なのに、自分でコントロールする術がないなんて怖すぎる。でもこれが私の道、どんな理由にせよ。」とコメントが添えられている。

 
この結果に、レディー・ガガ(ルークから同じ被害にあっていたのではと噂されている)を始め、アリアナ・グランデやケリー・クラークソンら音楽業界の同志が応援、テイラー・スウィフトは彼女が裁判が理由で活動できないことに心を痛め、2,500万もの寄付をしている。ネット上でも#FreeKeshaというハッシュタグにて署名運動や声援が広がっている。

 
 
そして今回の控訴棄却。先日ケシャは新たにinstagramに写真とコメントを投稿。「そうね、私が嘘をつけば自由にしてあげるって提案されたわ。公で私が謝罪し、レイプされたことはないと言えば。これが水面下で起きていることよ。私は絶対に真実を取り消したりしないわ。またモンスターのために嘘をつくくらいなら、真実によってキャリアが破滅した方がマシね」

 


 
 
これがケシャに起きたことだ。正直、ケシャの被害を目の前で見ていたわけではないため、ルークの証言も含めると何が真実かは個人で判断できる話ではないところ。ただ、支配するものとされるものの関係性は見てとれるし、それを無視すべきでないと思う。ケシャはそれが真実だと述べ、自分の大好きな歌うこと、音楽業界でのキャリアを投げ捨ててまで被害を訴えている点、また真実を消す強要をされていたとする点を含めると、ケシャを応援したくなる人の方が多いだろう。

 
 
いかなる時も、肉体的な力や権力をかさに暴力を振るうことは間違っている。特に、性的虐待は抵抗しがたいもの。そこに脅迫も加われば、裁判で提出するための証拠などいちいち残していられない。だが、ケシャの裁判に見られるように、証拠がないということで訴えを取り下げられ、さらには、権力者から金をむしりとるために裁判を起こしているのではと、逆に容疑者扱いされる世の中なのが事実。秩序を乱さないため、そして被害者を守るためにあるはずの法によって事実は埋められ、結局はパワーあるもののみが笑みを浮かべることになるのだ。
ケシャは少なくともアーティストであるため、メディアに取り上げられ、虐待の被害者を代表してスポークマンとなってくれたが、声も出せずに被害に苦しんでいる人はいっぱいいるはず。

 
 
あなたはケシャの事件、どう捉るだろうか?
 
 
 

Top Photo/BUSINESS INSIDER

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